石工職人の技術研鑽

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~石工職人の術~

 

工職人は固く癖のある世界中の石を自由に砕く技術を持っている。

手に持った瞬間に石の固さ、石目、癖、層を読み取りトンカチを使って

華麗に砕いて加工していく。どんな石でも、鉛筆でしるしをした通りに

寸分の狂いもなく砕く。

初めて石工職人が石を砕いている姿を見て、僕は言葉には言い表せない

衝撃を感じた。 

 

砕く箇所を一センチでも狂えばミスをして加工が失敗する。その技術を

何が何でも習得したいと思い、20歳の時に石工の親方の元に弟子入りをした

弟子入りをしてすぐに、秋田県にある田沢湖の現場に見習い修行で出張に行くことになった。

 

 

~地獄の修行経験~

 

初めての秋田県。3月の田沢湖は、雪が激しく数メートル積もっている極寒現場だった。

初の石工の現場に行って早速、驚きの光景を目にする。

 

あまりの寒さに躯体が凍ってしまっており、壁に石を張る前に【ハツリ屋】がドリルで

凍った氷柱をハツっているのだ!足場にいる石工の僕たちの真上から、ガンガンと砕かれた

氷柱が落ちて来る。すさまじい光景だった。流石にあの氷柱を脳天に喰らったら死んでしまう

思ったほどだ。氷柱を排除した後はバーナーで躯体を乾かし石貼りが始まる。

 

足場の上では背中から湯けむりを出しながら、石工職人たちが華麗に外壁を積み上げていく。

カッコよかった。

 

石を落としたら下で作業している他の職人が死ぬ。。

絶対に石を落としてはいけない緊張の中、一度のミスも許されない責任を背負いチーム戦で作業を進めていく。

僕は、見習いなのでひたすら手元に務め、先輩たちの背中を見させてもらった。

 

この時、初めて石砕きを経験する事になる。

しょっぱなからメゲそうになる経験が僕を襲う。。防寒手袋は全て外すように親方から命令が出る

素手は流石に焦った。

そして、氷のように冷たい鉄平石を左手でしっかりと抑え、トンカチで抑えた左手の親指の

数ミリ横を目がけて思い切り砕くのだ。汗。

 

修行を始めて数分、早速トンカチの先端が親指を潰す。瞬間でチマメが膨らみ、ドクドクと

チマメが脈を打っているのを感じるくらいの大きなチマメに悶絶。。。。ううう。。。

 

後ろから黙って見ている親方が口を開く。「俺がストップというまで頑張って続けろ」

「マジかよ!!」焦る僕。手はかじかんでいて、激痛が左手親指に走っている。

その数分後、華麗にチマメを潰し、僕はそのまま豪雪の中、うずくまってしまった。

 

~失敗と挫折の連続~

 

痛いなんてもんじゃない。手は青紫色になっていて、もうすぐ凍傷になるのではないかと

思うくらいの色。親指からはかなりの血が流れ、石についた血は既に凍っている。。。

少し休ませてもらえるかな。という考えが頭をよぎる。

その直後、そんな考えは甘すぎたという事を痛感することになる。

 

「みんなこの修行を乗り越えて技術を身に着けていくんだ。

指を潰す事を恐れるな。怖がるな。最悪砕いたら粉砕骨折。また挑戦だ。

痛みは懐かしい過去になる。そしてその技術は一生ものだ。ドンドン砕け!」

 

その言葉を聞いて「うおーーーーーーーーーーー!!!!!」と叫び

豪雪の中で毎日10時間、素手で石を砕く修行に打ち込んだ。

上等じゃないか!

失敗と挫折の連続だったが、もうやるしかない!と自分に活を入れた。

不思議な事に、しばらく打ち込むと意識は段々ともうろうとなり、手の痛みは

しびれの方が強くなり消えていく。その中で石を砕く音を聞き、トンカチの当たり方

角度は良いのか、肌で感じ取りながら修行に打ち込む。

 

一番辛いのは、朝方朝礼が終わり、素手になったときのあの痛みだ。

またこの手を叩いてしまうかという恐怖は、相当なものだった。

 

喧嘩でボコボコにされた事は何度も経験があるが、その時とは全く違う

あの痛みをまた、今日も何度も味わうのか。。。という恐怖は本当に凄かった。

 

結果、一日に5回はうずくまる経験をしてしまう事になる。。。(笑)

まさに、思考は現実になるだ。。

 

約三か月、毎日毎日手を潰し、石工技術習得の為に

全神経を集中させる。思い出すだけで左手の親指がビリビリしてくる。

それくらい衝撃的な毎日だった。

 

実は、あまりの痛さと、潰す瞬間の恐怖に何度も辞めようと

思った事がある。ただ、その度に大先輩達のカッコいい姿を見て

人間にできる事が、できないわけがないと自分を奮い立たせ努力した。

 

加工技術習得まで、約一年が経過する頃にはほとんど指を潰す事はなく

どんな石でも砕けるようになっている自分がいた。人間の成長というものは

本当に面白い。

 

石工の技術を持つ人は全国でもほとんどいないと言われている。

 

その理由は、あの過酷な修行環境にあるのではないかと思っている。

けれども、その厳しい修行を乗り越えるからこそ、その技術は一生ものになり

幸い僕はその技術を現場ではなく、芸術に活かす事ができている

創作動画の中に石を砕いている映像がある。

この時に親指を潰すと最悪な結果になってしまう。時間があれば是非。

 

 

現場で大きな石を砕くよりも、小さな石を砕く技術の方が大変な為

新しい石や、癖のある石に出逢い、思い通りに砕く事が出来なった時は

なんというか、メラメラと内なる挑戦心が込み上げてくる。

 

今もなお、日々の研鑽は欠かさずに続けている。

 

コツコツが勝つコツだと信じて Ishitaro  砕


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